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比較・選定

MCP vs RAG:エンタープライズAI導入のための技術選定フレームワーク【2026年版】

MCPとRAGを「競合技術」として比較するのは根本的な誤りです。両者はAIスタックの異なる層に位置し、正しく使い分けることで初めてエンタープライズAIは機能します。DX推進部門向けに技術選定の判断基準を徹底解説します。

読了 12分|峻 福地

なぜ「MCP vs RAG」という比較が生まれるのか

「MCPを導入すれば、RAGは不要になりますか?」——エンタープライズのAI導入支援の現場で、この問いを繰り返し耳にします。結論から言えば、この問い自体がカテゴリーエラーです。MCPとRAGは競合しておらず、AIアプリケーションスタックの異なる層に位置します。しかし、なぜこの混同が起きるのか。両者がともに「モデルに外部情報を与える」ためのアプローチとして語られることが多いからです。

homulaは、エンタープライズ企業向けにAIエージェントの戦略策定・PoC・実装・運用・内製化までを一気通貫で支援するAIインテグレーターです。累計調達3.2億円、5日間でのPoC構築実績を持つ当社が、この「MCP vs RAG」論争に対して、実務に根ざした明確な答えを提示します。

「どちらが優れているか」ではなく、「何のためにどちらを選ぶか」——この問いへの答えが、エンタープライズAI導入の成否を分けます。

技術の本質:スタックの「どの層」に位置するか

RAGとは何か:知識補完のアーキテクチャ

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、LLMが本来持っていない最新情報や企業固有の知識を、推論時に動的に注入するための検索エンジン的アーキテクチャパターンです。

処理の流れは、インデックス化(Index)→ 検索(Retrieve)→ 文脈注入(Augment)→ 生成(Generate)の4段階で構成されます。

[社内ドキュメント]
  → チャンク分割 + ベクトル化(Embedding)
  → ベクトルDB(Pinecone / pgvector 等)へ格納

[ユーザーの質問]
  → 同じEmbeddingモデルでベクトル化
  → 類似度検索でTop-K件のチャンクを取得
  → 取得したチャンクをプロンプトに挿入
  → LLMが回答を生成

RAGが本質的に解決するのは「モデルは何を知っているか」という問いです。

MCPとは何か:接続の標準プロトコル

MCP(Model Context Protocol)は、Anthropicが提唱しオープンソース化された、AIアプリケーション(ホスト)と外部システム(サーバー)を標準化された方法で接続するためのプロトコルです。2025年3月にOpenAIが公式採用し、GoogleもGemini APIの標準規格として採用したことで、業界のデファクトスタンダードへと昇格しました。

[MCPホスト](Claude / GPT / Gemini等)
  ↕ JSON-RPC 2.0 over stdio or Streamable HTTP
[MCPサーバー]
  ├── Tools(実行可能な関数: API呼び出し、DB操作等)
  ├── Resources(文脈データ: ドキュメント、レコード等)
  └── Prompts(再利用可能なテンプレート)

MCPが本質的に解決するのは「モデルは何ができるか」という問いです。

混同される理由と正しい対比軸

比較軸RAGMCP
技術的正体検索・生成のアーキテクチャパターン接続・実行の標準プロトコル
解決する問いモデルは何を知っているかモデルは何ができるか
情報のタイプ非構造化文書(PDF・Wiki・Slack等)構造化データ(DB・SaaS・ライブAPI等)
情報の鮮度数時間〜数日のタイムラグありリアルタイム(接続先APIに依存)
主なアクション読み取り・回答・要約読み取り+書き込み+実行
競合関係競合しない。補完関係にある競合しない。補完関係にある
💡

端的に言えば、RAGは「図書館の司書」で、MCPは「業務を実際に執行できる派遣スタッフ」です。どちらが優れているかではなく、今やりたい仕事が「調べること」か「動かすこと」かで選ぶものです。

ユースケース別の選定フレームワーク

RAGが本領を発揮する場面

RAGは「大量の非構造化テキストから、意味的に関連する情報を抽出して回答する」という課題において、現時点で最も実績のあるアプローチです。

RAGが強いユースケース:

  • 社内規定・コンプライアンスQ&A:就業規則・経費規程・情報セキュリティポリシー等の文書群から、従業員の質問に正確に回答する。引用箇所を明示できるため、根拠の透明性が確保できる。

  • 顧客サポート・ナレッジベース:過去の問い合わせ履歴・製品マニュアル・FAQ等を横断検索し、サポート担当者や顧客に最適な回答を提供する。

  • 契約書・技術仕様書の横断検索:複数部門にまたがる大量の文書から、特定の条件・仕様・承認プロセスに関する情報を抽出する。

  • 社内ナレッジの民主化:各部門のノウハウがSlack・Notion・SharePointに散在している状況で、全社員がナレッジにアクセスできる環境を整備する。

定量的な参考値:Anthropicの技術資料で言及されているContextual Retrievalでは、適切なリランキングとの組み合わせにより、検索失敗率を最大67%削減できることが示されています。

MCPが本領を発揮する場面

MCPは「AIエージェントが企業の業務システムと安全かつ一貫した方法で対話し、実際にアクションを実行する」という課題において不可欠な基盤です。

MCPが強いユースケース:

  • リアルタイムデータの参照と操作:在庫状況・為替レート・発注残・工程進捗など、「今この瞬間の正確な値」を必要とする業務。ベクトルDBに古いスナップショットを格納する方式では、データの鮮度を保証できない。

  • 複数システムをまたぐワークフロー実行:Slackで問い合わせを受け取り → Salesforceの顧客情報を確認し → Notionにメモを作成し → Jiraにチケットを起票する、という一連のアクションを自律的に実行する。

  • 構造化クエリの実行:「部門ごとの平均残業時間を集計せよ」のような問いは、ベクトル検索でランダムに文書片を拾うよりも、DBに対してSQL(GROUP BY等)を直接実行する方が正確で、結果も監査可能。

  • 承認・通知フローの自動化:人間の承認を組み込んだ業務プロセス(Human-in-the-loop)を、MCPのツール実行フレームワーク上で設計する。

「RAGで解こうとしたが実はMCPが正解だった」3つの逆転パターン

実際のエンタープライズ導入現場では、RAGで始めてMCPへ転換するケースが相当数発生しています。

パターン1:リアルタイム性の壁

証券会社の事例として報告されているパターンです。為替レートをテキスト化して定期的にRAGへインデックスしていたが、急激な相場変動時に古いレートをAIが確信を持って回答し、顧客クレームに繋がった。市場データAPIをMCPサーバー経由で直接参照する構成に切り替えることで、リアルタイム性と正確性を確保しました。

パターン2:集計・計算の精度問題

RAGは「意味的類似性」で検索するため、数値データの集計には根本的に向いていません。「各部署の残業時間を合計せよ」という問いに対し、ランダムに拾われたデータ断片では合計値が合わない。MCPでデータベースに対してSQLを実行させることで、計算ミスが根絶されます。

パターン3:複数バージョンのドキュメント混在問題

複数のマニュアルに異なる数値が記載されている場合、RAGはどちらが最新かを判断できません。MCPでマスター管理システムやドキュメントのメタデータ(最終更新日時)を直接参照させることで、Single Source of Truthを特定できます。

⚠️

RAGは「正しい情報を知っているか」を問う課題に強く、「今何が起きているか」「正確な値はいくつか」を問う課題には構造的に向いていません。この区別を設計段階で誤ると、後で根本的なアーキテクチャ変更を強いられます。

意思決定マトリクス:DX推進部門のための判断基準

技術選定マトリクス

判断軸RAGを選ぶMCPを選ぶ
AIに何をさせたいか知る・調べる・要約する動かす・連携する・実行する
扱う情報の形式非構造化文書(PDF・Slack・Wiki)構造化データ(DB・SaaS API)
必要な情報の鮮度数時間〜数日のラグが許容できる秒単位のリアルタイムが必要
求める正確性意味的に正しければ良い1対1の正確なマッチングが必要
アクションの有無回答・要約で十分システム更新・通知・承認が必要
セキュリティの主軸文書へのアクセス制御API実行認可と操作ログの監視
コスト特性初期のベクトルDB構築コスト高既存IT資産(API)を有効活用

意思決定ツリー

AIに何をさせたいか?
│
├── 「知りたい・探したい・要約したい」
│   └── RAGの検討へ
│       │
│       ├── 情報の鮮度:数時間〜数日のラグが許容できる?
│       │   ├── Yes → RAG単体で有効
│       │   └── No  → MCPへの転換、またはMCP+RAGへ
│       │
│       └── 答える内容に「計算・集計・最新値」が含まれる?
│           ├── No  → RAG単体で有効
│           └── Yes → MCPの補完が必要
│
└── 「動かしたい・連携したい・実行したい」
    └── MCPの検討へ
        │
        ├── 実行内容に「判断の根拠となる文書」が必要?
        │   ├── No  → MCP単体で有効
        │   └── Yes → MCP + RAG(ハイブリッド)を検討
        │
        └── 実行に人間の最終確認が必要?
            ├── No  → MCPのツール実行
            └── Yes → Human-in-the-loopを組み込んだMCP設計

最も高度な構成:ハイブリッドアーキテクチャ

実際のエンタープライズAI環境では、RAGとMCPは競合するのではなく、「MCPのツールの一つとしてRAGが組み込まれる」構造へと進化しています。

[ユーザー]
    ↓
[AIエージェント(MCPホスト)]
    │
    ├── tool: search_manuals(RAGサービスをMCPツール化)
    │   └── ベクトルDB → 規定・マニュアルを検索・取得
    │
    ├── tool: check_inventory(在庫DBへの直接クエリ)
    │   └── リアルタイムの在庫数・納期を取得
    │
    ├── tool: create_ticket(ITSMシステムへの書き込み)
    │   └── Jiraにチケットを自動起票
    │
    └── tool: notify_slack(Slack APIへの通知)
        └── 担当者へのメンション通知を送信

このアーキテクチャにより、AIエージェントは「規定を調べ → 在庫を確認し → チケットを起票し → 担当者に通知する」という業務プロセス全体をエンドツーエンドで実行できます。RAGは「知識補完ツール」の一つとして、MCPの標準化されたインターフェース上で呼び出されます。

ハイブリッド構成が適切な場面

  • 製造業の調達業務:仕様書をRAGで検索(マニュアル群) → 在庫・納期をMCPで確認(SCMシステム) → 発注をMCPで実行(ERPシステム)
  • 金融の審査業務:規制・社内基準をRAGで参照 → 顧客データをMCPで取得(CRM) → 審査結果をMCPで記録し承認フローへ
  • 流通の顧客対応:FAQをRAGで検索 → 注文状況をMCPで確認(OMS) → 対応内容をMCPでCRMに記録

エンタープライズ導入時のガバナンス設計

RAGの運用上の落とし穴

RAGは「構築して終わり」ではなく、継続的な運用コストが発生します。

チャンク設計の難しさ:文書をどの単位で分割するかは、検索精度に直結します。小さすぎると文脈が失われ、大きすぎるとノイズが混入します。最適なチャンクサイズは文書の性質によって異なり、継続的なチューニングが必要です。

Embeddingモデルの陳腐化:社内用語の変化や、より高性能なEmbeddingモデルの登場に伴い、数百万件のベクトルデータの再計算(Re-embedding)が必要になります。これは無視できないコストと工数を伴います。

セマンティックノイズ:「単語が似ている」だけで論理的に正反対のドキュメントを引き当てるリスクがあります。クロスエンコーダーによるリランキング等の対策が必要です。

MCPのセキュリティ・ガバナンス要件

MCPは「AIに実行権限を与える」ため、従来のRAGを超えた厳格なセキュリティ設計が不可欠です。

リスク内容対策
ツールポイズニング悪意あるプロンプト注入によるツールの不正実行入力バリデーション・認証済みサーバーカタログの整備
RBAC未適用AIがユーザーの権限範囲を超えてアクションを実行OAuth 2.1ベースの認可フロー・ロールマッピング
監査ログの欠如AIが何を実行したか事後追跡不能JSON-RPCリクエスト・ツール戻り値・思考ログの紐付け保存
不可逆な操作の無制限実行削除・送金等の高リスクアクションをAIが単独実行Human-in-the-loopの設計・危険アクションの承認ゲート
シャドーMCPサーバー社員が野良MCPサーバーをAIに接続承認済みサーバーのホワイトリスト制度

LINEヤフーが社内向けに展開しているアプローチは参考になります。MCPサーバーの利用申請プロセス・セキュリティレビュー・内部承認済みサーバーカタログを整備することで、社員がAIを使う自由度と、企業データの安全性を両立させる制度設計が可能です。

日本企業固有の考慮点

オンプレミスへの親和性という観点では、MCPはRAGより有利です。MCPサーバーを社内LAN内に配置し、stdio通信を利用することで、インターネットを経由せずに基幹データとAIを安全に連携させることができます。これは、データの外部持ち出しに慎重な金融・医療・製造業において重要です。

また、金融庁のAI利活用ガイドラインが求める「明示的なユーザー同意」と「厳格なアクセス制御」は、MCPのOAuth 2.1ベースの認可フレームワークと親和性が高く、規制対応の技術的根拠としても活用できます。

業種別の選定ガイド

業種主な用途推奨構成理由
金融規制対応QA・審査支援RAG + MCP(ハイブリッド)文書参照(RAG)+顧客システム操作(MCP)+監査ログが必須
製造技術仕様検索・発注自動化RAG + MCP(ハイブリッド)仕様書はRAG、SCM/ERPへの操作はMCP
流通・小売顧客対応・在庫確認MCP優先リアルタイムの在庫・配送状況が核心
医療・ヘルスケア診療ガイドライン参照RAG優先(MCP慎重導入)文書参照は有効。実行系は人間の確認必須
IT・SaaS開発支援・インシデント対応MCP優先コードリポジトリ・監視ツールとの連携が中心
公共・官公庁法令・条例の市民向けQARAG優先膨大な文書群の参照が中心。実行権限は慎重に

2026年以降のトレンド:二者択一の議論が終わる

GraphRAGとAgentic RAG

RAGは進化を続けており、2026年においては以下の形態が主流になりつつあります。

GraphRAG:文書間の関係性をナレッジグラフで表現することで、「このプロジェクトの遅延が他のどの部門に波及するか」のような横断的推論を実現します。従来のベクトル検索RAGと比較し、複雑な文書構造に対する回答精度が中央値で5.85ポイント向上したという報告があります。

Agentic RAG:検索行為そのものをエージェントのタスクとして捉え、AIが「どのデータソースを使うか」「検索結果が不十分なら別クエリで再試行するか」を自律的に判断します。この形態では、RAGサービス自体がMCPサーバーのツールとして提供されるアーキテクチャが自然な実装になります。

A2A(Agent-to-Agent)プロトコルの登場

2026年には、AIエージェント同士が自律的に連携するA2Aプロトコルが実用段階に入りつつあります。役割の分担は明確です。A2Aが「タスクの委譲(何をしてほしいか)」を定め、MCPが「ツールの実行(どうやってやるか)」を定める。RAGは依然として知識補完の役割を担いながら、MCPサーバーのツールとして各エージェントから呼び出される形態が標準になります。

MCPのエコシステムは2025年末時点でGitHub上の実装数が20,000件を超え、市場規模は2025年の18億ドルから2034年には55億ドルへの成長が予測されています。

よくある質問

RAGをすでに構築済みです。MCPに移行する必要がありますか?

移行ではなく「拡張」と考えてください。既存のRAGシステムは、MCPサーバーの「ツールの一つ」として再利用できます。rag_search というツールをMCPサーバーとして公開することで、既存の投資を活かしながら、MCPが提供する標準化・ガバナンス・他ツールとの連携のメリットを得ることができます。

セキュリティ的にはRAGとMCPどちらが安全ですか?

RAGは基本的に読み取り専用で、文書へのアクセス制御が主要な関心事です。MCPはAIに実行権限を付与するため、RBAC・監査ログ・Human-in-the-loop等、より厳格なガバナンスが必要です。「安全性」はどちらが上とは言えず、MCPは設計次第で高い安全性を確保できます。むしろ、MCPのプロトコルレベルの権限管理(OAuth 2.1)は、非標準のRAG実装より体系的なセキュリティ設計を促す側面があります。

PoCで5日間しかない場合、どちらから始めるべきですか?

業務要件によって異なりますが、「社内ドキュメントへのQ&A」が目的ならRAGから始める方が立ち上がりが早い傾向があります。一方、「複数システムをまたぐ業務フローの自動化」が目的ならMCPから設計するべきです。homulaのブートキャンプでは、業務棚卸しを通じてどちらが適切かを最初に判定し、5日間で動くプロトタイプとROI試算を提供しています。

まとめ:「選択」ではなく「設計」の問題として捉える

MCP vs RAGは、「どちらが優れているか」という選択の問題ではなく、「AIアプリケーションスタックをどう設計するか」というアーキテクチャの問題です。

整理すると、以下の三原則が導出されます。

第一原則:RAGは「知識補完のパターン」、MCPは「接続・実行のプロトコル」。解決する問いが異なるため、競合しない。

第二原則:「今の正確な値が必要」「システムを実際に操作したい」という要件はMCPが担う。「大量の文書から意味的に関連する情報を抽出したい」という要件はRAGが担う。

第三原則:本格的なエンタープライズAIエージェントでは、MCPのツールの一つとしてRAGが組み込まれるハイブリッド構成が最終形態になる。

日本企業が直面している「M×N問題」——AIの数と連携先システムの数の掛け算的な開発コスト——は、MCPの標準化によって初めて根本解決できます。そして、その上に乗る知識補完の仕組みとして、RAGは依然として重要な役割を果たし続けます。

どちらかを「選ぶ」のではなく、両者を「正しく配置する」ことが、2026年以降のエンタープライズAI戦略の出発点です。


homulaは、5日間のブートキャンプで業務棚卸し・アーキテクチャ設計・動くプロトタイプ・ROI試算を一気に完結させます。「RAGで始めたが限界を感じている」「MCPを導入したいがセキュリティ設計に自信がない」という段階でも、ご相談ください。

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株式会社homula(ホムラ)は、2019年創業・累計調達3.2億円のAIインテグレーターです。n8n・Dify・LangGraphを活用したAIエージェント導入支援を専門とし、戦略策定からPoC(最短5日)、本番実装、運用・内製化までを一気通貫で提供しています。