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サイバー攻撃の基礎とAI — 第2回

脆弱性と被害の現実

パッチの時間差と、統計・事例を、9枚の図で。

18〜22分対象: IT・情報システム担当(専門知識は前提にしません)最終更新: 2026年10月

この回の結論:修正プログラムの量は当面増え続け、悪用はその公開より先に始まります。すべてを同じ速さで当てることはできないので、「何から当てるか」と「当てる仕組み」を先に決めておく必要があります。

第1回では、攻撃が分業で行われ、開いている入口を機械的に探すものであることを見ました。この回では、その「入口」の正体である脆弱性と、実際に起きている被害を、統計と公表された事例で確認します。

前半で脆弱性の基礎用語とパッチの時間差を、後半で警察庁の統計と国内の事例を扱います。事例は、公的機関または当事者が公表した事実だけを載せています。

数値の基準日:2026年10月27日

統計は基準日時点の最新版です。事実・数値には [ ] で出典番号を付け、記事末尾に原文へのリンクを載せています。原文で裏付けられない推奨は「本ガイドの提案」と明記しています。

−7日

悪用の開始(パッチ公開日基準)

43日

KEV脆弱性の修正完了(中央値)

59%

未適用パッチがあった被害組織(2022〜25年計)

72.5%

バックアップから復元できず(2026年上半期)

1.脆弱性の基礎 — 一生と、4つの物差し

脆弱性とは、ソフトウェアや設定の欠陥のうち、攻撃に使えるものです。脆弱性には「一生」があり、どの時期にあるかで危険の性質が変わります。

脆弱性の一生修正プログラムが出る前に悪用されるゼロデイ修正済み。適用していない組織が狙われるn-day見つかっても修正されないサポート終了後修正プログラムの公開サポート終了(EOL/EOS)脆弱性を測る4つの物差しCVE脆弱性に付く世界共通の識別番号(例: CVE-2018-13379)CVSS深刻度を0.0〜10.0で表す。悪用されているかは表さないKEV実際に悪用が確認された脆弱性の一覧(米CISA)EPSS今後30日に悪用される確率の推定(FIRST)
図1脆弱性の一生と、それを測る4つの物差し。優先度の判断に直結するのは、実際の悪用を示すKEV[G4]。EPSSは悪用の確率の推定として補助的に使える[G5]。
用語意味
CVE脆弱性に付けられる世界共通の識別番号(例: CVE-2018-13379)
CVSS脆弱性の深刻度を0.0〜10.0で表す指標。「悪用されているか」は表さない
KEV米CISAが公開する「実際に悪用が確認された脆弱性」の一覧[G4]
EPSS今後30日に悪用される確率を推定するスコア(FIRSTが提供)[G5]
ゼロデイ修正プログラムが提供される前に悪用される脆弱性
n-day修正プログラムが公開済みの脆弱性。適用していない組織が狙われる
EOL/EOS製品のサポート終了。以後、脆弱性が見つかっても修正されない

2.パッチの時間差 — 悪用は公開より先に始まる

防御が難しい理由は、修正プログラムの公開と適用の間に時間差があることです。そしてこの差は、攻撃側に有利な方向へ広がり続けています。

  • 攻撃側:Mandiantによる「脆弱性が悪用されるまでの平均日数」(パッチ公開日基準)は、2018〜19年の63日から短縮を続け、M-Trends 2026では推定−7日になりました。原文は、悪用がパッチの公開前に日常的に起きていると述べています[G2]。
  • 防御側:Verizonの2026年版報告では、KEVに載っている脆弱性が組織内で完全に修正されるまでの日数は中央値43日(前年32日)で、完全に修正できた割合は26%(前年38%)でした[G1]。
修正プログラムの公開日を0日とした、攻撃側と防御側の時間差悪用が始まってから、修正が終わるまで 約50日−70142863(日)悪用の開始(平均)パッチ公開の7日前M-Trends 2026 の推定2018〜19年の悪用開始公開から63日後修正プログラムの公開修正の完了(中央値43日)KEV掲載の脆弱性(前年は32日)完全に修正できたのは26%
図2パッチ公開日を0日とした、攻撃側と防御側の時間差。悪用の開始はMandiant[G2]、修正の完了はVerizon[G1]による。約50日の差は、両者の値から本ガイドが算出したもので、出典の定義・母集団は異なる。

その結果、侵害の入口そのものが入れ替わりました。Verizonの2026年版報告では、初期侵入経路の1位が脆弱性の悪用(31%)になり、それまで1位だった認証情報の悪用は13%に下がりました[G1]。

侵害の初期侵入経路(Verizon 2026)脆弱性の悪用1位に31%認証情報の悪用それまでの1位13%パッチが追いつかない状態が続き、「当てていない脆弱性」が最大の入口になった。
図3侵害の初期侵入経路の上位2つ[G1]。

3.脆弱性の数そのものが急増している

時間差に加えて、当てるべき修正の量も急増しています。

  • NVDに公開されたCVE(取り下げ分を除く)は、2025年が年間48,151件。2026年は1月1日〜10月26日で87,269件と、前年同期(38,714件)の約2.25倍です(2026年10月27日にNVD APIで集計)[G3]。NISTは2026年4月、CVEの登録が2020〜2025年に263%増えたとして、NVDの補足情報の付与をKEV掲載分などに優先する運用に変えました[G3b]。
  • KEVの掲載数は2026年10月26日時点で1,758件。2026年の追加は274件で、すでに2025年の年間245件を超えました[G4]。
  • Microsoftが自社製品で採番したCVEは、2025年9月の94件に対し、2026年9月は998件でした(MSRCの配信データより集計)[G6b]。Microsoftは更新の量が当面増え続けるとし、AIが発見を加速させている要因の一つだと説明しています[G6]。
NVDに公開されたCVE各年1月1日〜10月26日38,7142025年87,2692026年約2.25倍KEVへの追加数実際に悪用が確認された脆弱性2452025年通年2742026年〜10/26通年を10月で超えたMicrosoftが採番したCVE自社製品・9月の1か月分942025年9月9982026年9月約10倍
図4脆弱性の数を示す3つの指標。NVD[G3]、CISA KEV[G4]、Microsoft MSRC[G6b]の集計値。各パネルの縦軸は、それぞれの最大値に合わせている。

実務上の意味

修正プログラムの量は当面増え続けます。すべてを同じ速さで当てることはできないので、「何から当てるか」(KEV掲載・インターネットに公開された機器を優先)と「当てる仕組み」(自動更新、期限の設定)を決めておく必要があります。具体的な手順は第4回で扱います。

CVSSの数字だけで優先度を決めない

優先度を決めるときに陥りやすいのが、CVSSの深刻度だけで判断することです。CVSSは「悪用されているか」を表しません。後述するデジタル庁GSSの事例では、当初CVSS Mediumと評価された脆弱性が、修正プログラムの適用前に悪用されました[J15]。

最優先 — 見落としやすい深刻度は低めでも、実際に悪用されている例: GSSの事例(当初の評価はCVSS Medium)最優先深刻で、実際に悪用されている定例の適用月次などの決まった枠で当てる計画的に早めに深刻だが、悪用はまだ確認されていない低CVSS(深刻度)→高悪用あり未確認悪用の確認(KEVなど)本ガイドの整理。具体的な期限の決め方は、インターネットへの公開の有無も加えて第4回で扱う。
図5CVSS(深刻度)とKEV(悪用の確認)の2軸で見た優先度。悪用が確認されているものは、CVSSの高低にかかわらず最優先にする。

4.国内のランサムウェア被害 — 警察庁の統計

ここからは、国内で実際に起きている被害を、警察庁の統計で見ます[J1]。2026年上半期のランサムウェア被害は123件で、半期として統計開始以降最多でした。

ランサムウェアノーウェアランサム1002000146(未集計)2021230(未集計)2022197+302023222+222024226+172025123+92026上半期半期として過去最多2026年は上半期(1〜6月)の件数。ほかの年は通年の件数。
図6国内のランサムウェア被害件数の推移(警察庁)[J1]。ノーウェアランサムは令和5年(2023年)上半期から別に集計されている。

侵入経路の大半はVPN機器とリモートデスクトップ

被害組織へのアンケートでは、VPN機器とリモートデスクトップの合計が、2021〜2025年の5年計で82.1%(398/485件)を占めました。2026年上半期はVPN機器が50%(18/36件)、リモートデスクトップが25%(9/36件)です。警察庁は、攻撃者が未修正の脆弱性や漏えいした認証情報等を悪用して組織のネットワークへ侵入するとしています[J1]。

2021〜2025年の5年計(有効回答485件)VPN機器+リモートデスクトップ82.1%その他17.9%2026年上半期(有効回答36件)VPN機器50%リモートデスクトップ25%その他25%社外から社内に入るための入口そのものが、侵入経路の大半を占める。
図7ランサムウェアの侵入経路(被害組織へのアンケート、警察庁)[J1]。

パッチ、バックアップ、復旧の実態

同じアンケートからは、基本対策の不備がそのまま被害につながっていることが読み取れます。特に目立つのは、2026年上半期にバックアップを取得していた組織が50件中44件あった一方で、バックアップから復元できなかった組織が有効回答40件中29件(72.5%)にのぼったことです。攻撃者がバックアップの削除・暗号化を狙うためです(第1回の段階⑥)。

未適用のセキュリティパッチがあった2022〜2025年の4年計59.0%203/344件バックアップから復元できなかった2026年上半期(取得していたのは44/50件)72.5%29/40件1か月未満で復旧できた2026年上半期47.9%23/48件調査・復旧費用が1,000万円以上2026年上半期60.0%21/35件母数は各設問の有効回答件数。設問ごとに母数が異なるため、項目間で単純に足し引きはできない。
図8被害組織へのアンケートが示す4つの事実(警察庁)[J1]。母数は各設問の有効回答件数。

5.公表された事例と、共通する不備

次の6つは、公的機関または当事者が原因や状況を公表した事例です。個々の事情は違っても、分解すると以前から知られていた基本的な不備に帰着します。

公表された事例共通する不備と、対策を扱う回半田病院2021年アスクル2025年デジタル庁 GSS2026年KDDI2026年タイムズカー2026年RIZAP2026年公開機器の修正の遅れ対策 → 第4回 パッチ・公開面認証の例外・認証情報の流出対策 → 第4回 認証/第6回 委託先保存データの守りの弱さ平文のパスワード・不要なデータ → 第5回個人のAIサービスへの入力対策 → 第3回 AI/第6回 ルールいずれも、以前から知られていた基本的な不備に帰着する(本ガイドの整理)。
図9公表された6つの事例を、共通する不備に分解した図。不備の分類と、対策を扱う回の対応は本ガイドの整理。詳細と出典は下の表を参照。
事例公表された原因・状況教訓
つるぎ町立半田病院(2021年)有識者会議の報告書は、導入以来更新されていなかったVPN装置(FortiGate)の脆弱性CVE-2018-13379から侵入したと推定。この脆弱性で取得されたVPN装置の管理者資格情報がダークウェブで公開されていた。電子カルテが停止[J16]公開機器のパッチ、認証情報の変更
アスクル(2025年)「例外的に多要素認証を適用していなかった業務委託先に対して付与していた管理者アカウント」のID・パスワードが漏えいし、不正利用された。初期侵入は推定で、ログ削除のため原因の完全究明は困難。受注・出荷業務を停止[J17]MFAの例外を作らない、委託先アカウントの管理、ログの保全
デジタル庁 GSS(2026年)攻撃前に公表済みだったVPN機器の脆弱性(当初評価CVSS Medium)を、修正プログラム適用前に悪用された。漏えいの可能性は約24.6万件(職員等)[J15]CVSSの数字だけで優先度を決めない、公開機器の即時適用
KDDI(2026年)ISP事業者向けメールシステムで、ソフトウェアベンダーも認識していなかった脆弱性を突かれた。漏えいが確認されたメールアドレスは12,231,954名、うち7,616,173名のパスワードは平文で保存されていた(個人情報保護委員会)[J12][J18]パスワードをハッシュ化して保存する
タイムズカー(2026年)Webシステムの脆弱性の悪用と判断。外部送信の痕跡がある情報は6,628,007件、うち本人確認書類画像は1,464,800件。退会者等の書類画像も含まれていた[J19]不要なデータを持たない
RIZAP(2026年)社員が業務データ(疾患情報を含む)を「個人で使用している外部の生成AIサービス」に誤ってアップロード。保険者側の公表では19,996名分。24時間以内に削除され、各公表は「漏えいの可能性」としている[J20][J20b]生成AIの利用ルールと、組織が管理するAIサービスの提供

入口が防げなくても、事前に備えられる部分がある

KDDIの事例の入口は、ベンダーも認識していなかった脆弱性でした。こうした入口は利用者側では防ぎきれません。一方で、パスワードをどう保存するか、不要なデータを持ち続けないかは、入口とは別に事前に決めておける部分です。「入られる前提で被害を限定する」対策が必要な理由です(第5回)。

個人を狙う詐欺も増え続けている

企業から漏えいした個人情報は、個人を狙う詐欺の材料にもなります。

  • 2025年の被害総額は3,257.4億円(特殊詐欺1,423.1億円+SNS型投資・ロマンス詐欺1,834.3億円)。警察官等をかたる「ニセ警察詐欺」は11,014件・1,005.0億円で、特殊詐欺の内数です[J2]。
  • 2026年は集計方法が変わり、SNS型投資・ロマンス詐欺も特殊詐欺に含まれます。1〜8月の暫定値は29,687件・2,360.7億円(前年同期比+33.2%)で、2025年の「特殊詐欺」とは単純に比較できません[J3]。

Summary

この記事の要点

  1. 1脆弱性の悪用はパッチ公開の平均7日前に始まり(推定)、KEV掲載脆弱性の修正完了には中央値43日かかる。完全に修正できたのは26%。
  2. 2初期侵入経路の1位は脆弱性の悪用(31%)になった。脆弱性の数も急増しており、CVEは前年同期の約2.25倍。
  3. 3CVSSは「悪用されているか」を表さない。優先度は、KEVへの掲載とインターネットへの公開の有無から先に決める。
  4. 4国内のランサムウェア被害は2026年上半期に123件で半期最多。同期間の侵入経路はVPN機器が50%、リモートデスクトップが25%(有効回答36件)。2022〜2025年の4年計では、被害組織の59.0%に未適用のパッチがあった。
  5. 52026年上半期の被害組織では、バックアップから復元できなかった組織が72.5%(有効回答40件中29件)にのぼった。
  6. 6公表された事例は、公開機器の修正の遅れ、認証の例外、保存データの守りの弱さ、個人のAIサービスへの入力という、基本的な不備に帰着する。

Sources

出典

本文の事実・数値は、以下の官公庁・公的機関・標準化団体・ベンダー公式の原文に基づいています。数値は各出典の公開時点、または2026年10月27日の集計時点のものです。

FAQ

よくある質問

CVSSだけで判断するのは危険です。CVSSは脆弱性の深刻度を表す指標で、実際に悪用されているかは表しません。デジタル庁のGSSでは、当初CVSS Mediumと評価されていたVPN機器の脆弱性が、修正プログラムの適用前に悪用されました。米CISAのKEV(実際に悪用が確認された脆弱性の一覧)に載っているか、インターネットに公開された機器かどうかを先に確認して優先度を決めます。

KEV(Known Exploited Vulnerabilities Catalog)は、米国のサイバーセキュリティ・インフラストラクチャ安全保障庁(CISA)が公開している「実際に悪用が確認された脆弱性」の一覧です。2026年10月26日時点で1,758件が掲載されており、2026年の追加は274件で、すでに2025年の年間245件を超えています。悪用の事実に基づくため、パッチの優先度判断に直結します。

警察庁の被害組織アンケートでは、VPN機器とリモートデスクトップの合計が2021〜2025年の5年計で82.1%を占めます。2026年上半期はVPN機器が50%、リモートデスクトップが25%でした。警察庁は、攻撃者が未修正の脆弱性や漏えいした認証情報等を悪用して組織のネットワークへ侵入するとしています。

取っているだけでは不十分です。2026年上半期の被害組織では、バックアップを取得していた組織は50件中44件でしたが、バックアップから復元できなかった組織は40件中29件(72.5%)にのぼりました。攻撃者はバックアップの削除・暗号化を狙うため、攻撃者の手が届かない場所への保管と、実際に戻せるかの復元テストが必要です。

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