MCPを導入したのに「使いこなせない」企業が増えている
2024年11月にAnthropicが発表したMCP(Model Context Protocol)は、AIエージェントと外部ツールの接続を標準化するオープンプロトコルとして急速に普及しました。2026年2月時点で月間9,700万以上のSDKダウンロード、10,000以上のアクティブサーバーが稼働し、ChatGPT・Claude・Gemini・Cursor・VS Codeなど主要プラットフォームが対応する業界標準となっています。
homulaは、MCPによるツール接続とAgent Skillsによる業務知識パッケージングを組み合わせた、エンタープライズ向けAIエージェントアーキテクチャを設計・構築します。数多くのエンタープライズ案件を通じて見えてきたのは、MCP導入後に多くの企業が直面する「接続はできたが、使いこなせない」という壁の存在です。
Slackに接続した。Salesforceのデータも読める。しかし、AIエージェントがそのデータを「どう処理し、どんな順序でワークフローを実行し、出力をどのフォーマットにすべきか」は、MCPの守備範囲ではありません。この構造的な課題に対して、2025年末に登場したもう一つのオープンプロトコル — Agent Skills — が解を提供します。
「接続」と「知識」の分離 — 2つのオープンプロトコルの設計思想
AIエージェントがエンタープライズで機能するには、2つの異なる問題を解決する必要があります。
- ツールへの接続(配線): どのシステムにどう繋ぐか
- 業務知識の装備(知恵): そのツールをどんな手順・ルール・フォーマットで使うか
MCPは前者を、Agent Skillsは後者を解決するために設計されました。いずれもAnthropicが開発し、オープンプロトコルとしてコミュニティに公開されています。MCPは2024年12月にLinux FoundationのAgentic AI Foundation(AAIF)に寄贈され、OpenAI・Google・Microsoft・AWSが共同ガバナンスに参加。Agent Skillsは2025年12月にオープンプロトコルとして公開され、Claude・Cursor・GitHub Copilot・OpenAI Codex・VS Codeなど20以上のプラットフォームが採用しています。
Sentryの共同創業者であるDavid Cramer氏は、この2つの関係をこう表現しています。「Skillsが料理の方法を教えてくれるなら、MCPはその料理を実行するための道具を提供する」。料理法(知識)と包丁やフライパン(ツール接続)は、本質的に異なるレイヤーの問題です。
図1: MCPは外部システムへの接続を提供し、Agent Skillsはその接続をどう活用するかの業務知識を提供する
MCP vs Agent Skills — 技術比較
両標準の特性を明確に整理します。
| 比較軸 | MCP(Model Context Protocol) | Agent Skills |
|---|---|---|
| 提供するもの | ツール接続・データアクセスの標準I/F | 業務手順・ルールの再利用可能な知識パッケージ |
| 解決する課題 | M×N統合問題(AIモデル×ツールの個別開発) | 反復指示・品質のばらつき・コンテキスト圧迫 |
| 技術基盤 | JSON-RPC 2.0 / OAuth 2.1 / クライアント-サーバー | SKILL.md(YAML + Markdown) + scripts/ + references/ |
| 実行能力 | ツール呼び出し・データ取得・外部操作 | 指示の提供 + オプションのスクリプト実行 |
| 粒度 | サービス単位(1 MCPサーバー = 1サービス接続) | タスク単位(1 Skill = 1業務手順) |
| コンテキスト消費 | ツール定義のスキーマ全体を読み込み | 段階的開示で必要部分のみ読み込み |
| 認証 | OAuth 2.1がプロトコルに組み込み | 認証機能なし(MCPに委譲) |
| ガバナンス | Agentic AI Foundation(Linux Foundation) | Anthropicが仕様管理、agentskills.ioで公開 |
| 採用規模(2026年2月) | 月間9,700万+ SDKダウンロード / 10,000+サーバー | 20+対応プラットフォーム / Microsoft 131 Skills公開 |
重要なのは、この2つが競合関係ではなく補完関係にあるという点です。MCPが「JSONで返せ」と指定する一方、Skillが「そのJSONをMarkdownテーブルに整形し、部門コード別に集計せよ」と指示する — この役割分担がエンタープライズ環境では不可欠になります。
「MCPサーバーの多くはSkillで代替できる」— 過剰なMCP実装の問題
2025年3月にOpenAIがMCPサポートを追加して以降、あらゆる用途にMCPサーバーが作られる現象が起きました。コーディング規約を教えたい? MCPサーバー。特定のワークフローに従わせたい? MCPサーバー。ドキュメントフォーマットを理解させたい? MCPサーバー。
David Cramer氏は、この傾向について次のように指摘しています。「MCPサーバーの多くは存在する必要がない — それらは実際にSkillで完全に代替可能だ」。これは拡張性を装ったアーキテクチャ負債であり、3つの実害をもたらします。
コンテキストウィンドウの圧迫
MCPサーバーはツール定義(入力スキーマ・出力スキーマ・説明文)をコンテキストに注入します。10個のMCPサーバーを接続し、それぞれが10個のツールを公開すると、100個分のツール定義がコンテキストを占有します。これはLLMの「思考領域」を直接的に圧迫し、応答品質の低下を招きます。
2026年1月、MCPにもTool Search(プログレッシブディスカバリ)が実装され、ツール名と説明のみを先行ロードし、必要時にスキーマ全体を展開する仕組みが導入されました。これによりAgent Skillsの段階的開示が持っていたコンテキスト効率の優位性は縮小しましたが、MCPとSkillsが解決する「問題の種類」が異なるという本質は変わりません。
運用コストの増大
MCPサーバーはプロセスとして起動・常駐します。OAuth認証のトークン管理、ヘルスチェック、バージョンアップ対応、セキュリティパッチ適用など、サーバー運用のオーバーヘッドがサーバー数に比例して増加します。「コーディング規約を教える」程度の用途にサーバーを立てるのは、明らかに過剰投資です。
認知負荷の増大
開発者やDX担当が「どのMCPサーバーがどの目的で使われているか」を把握する負荷が増加します。MCPサーバーが20個、30個と増えていくと、全体像の管理が困難になります。
判断基準はシンプルです。 リアルタイムにAPI呼び出しが必要なら MCP。静的な手順・ルール・テンプレートで十分なら Skill。多くの「知識を教えるためのMCPサーバー」は、SKILL.mdファイル1つで代替できます。
組み合わせ設計 — MCP × Skillsの実践パターン
MCPとAgent Skillsは単体でも機能しますが、組み合わせることで真の威力を発揮します。以下に、エンタープライズで頻出する3つの組み合わせパターンを示します。
パターン1: 会議準備ワークフロー
MCP層: Notion MCP → ページの検索・読み取り・作成
Skills層: Meeting Intelligence Skill
├── 検索すべきページの特定ロジック
├── 内部プリリード / 外部アジェンダの構造化
└── チーム固有のフォーマット基準
MCPが「Notionにアクセスする手段」を提供し、Skillが「どのページを最初に見るか、出力をどう構造化するか」を定義します。Skillがなければ、AIは毎回「何を検索すべきか」を推測しなければなりません。
パターン2: 営業週次レポート自動生成
MCP層: Salesforce MCP → 商談データの取得
Slack MCP → チャネルへの投稿
Skills層: Weekly Sales Report Skill
├── 部門別集計の手順
├── レポートフォーマット(references/template.md参照)
├── 10万円以上は承認ワークフロー起動
└── Tool Use Examples(成功パターン)
homulaのFDEが構築するスキルパックでは、Tool Use Examples(成功パターンの具体例)を含めることで、AIエージェントの実行精度を大幅に向上させています。
パターン3: コードレビューエージェント
MCP層: GitHub MCP → PR取得・コメント投稿
Skills層: Code Review Skill
├── レビュー観点チェックリスト
├── 言語別ベストプラクティス
└── セキュリティチェック項目
この設計の優位性はコンポーザビリティにあります。1つのSkillが複数のMCPサーバーを横断して調整でき、1つのMCPサーバーが多数のSkillから利用されます。新しいMCP接続を追加すれば既存のSkillがそれを活用でき、Skillを改善すれば接続済みの全ツールに反映される。この柔軟性こそ、エンタープライズアーキテクチャに求められる設計です。
図2: Agensは、MCP(接続)+ Agent Skills(知識)+ homula独自のエンタープライズ管理機能の3層で構成される
Agensにおける統合設計
homulaのAIエージェント実行基盤「Agens」は、この2層のオープンプロトコルの上にエンタープライズ管理機能を加えた3層アーキテクチャを採用しています。
Layer 1(MCP層) では、200以上のSaaS・基幹システムへの接続をノーコードで提供します。MCPサーバーの定義・登録・OAuth認証管理を一元化し、接続のための個別開発を不要にします。
Layer 2(Agent Skills層) では、業務スキルパック(SKILL.md + scripts/ + references/)をAgent Skills仕様に準拠した形で構築・配布します。homulaのFDE(Forward Deployed Engineer)が顧客企業の業務フローをヒアリングし、暗黙知をSKILL.mdとしてパッケージ化します。この構築を3〜5日のブートキャンプで実施し、動くプロトタイプとROI試算を同時に提供します。
Layer 3(homula独自層) では、スキルパックの組織配布・バージョン管理、RBAC/DLP、5年監査ログ、閉域網・セルフホスト対応など、エンタープライズに必要な統制機能を提供します。
この設計の重要なポイントは、Layer 1とLayer 2がオープンプロトコルに準拠しているため、ベンダーロックインが発生しない点です。Agensで作成したSKILL.mdはClaude Code・Cursor・GitHub Copilotでもそのまま利用でき、MCP接続は他のMCPクライアントからもアクセスできます。
エンタープライズにおける実装判断基準
「MCP・Skill・両方の組み合わせ」のどれを選ぶべきか。以下のディシジョンツリーを実装判断の出発点として活用してください。
MCPで解決すべきケース
- 外部SaaS・データベースへのリアルタイムアクセスが必要
- OAuth認証やAPIトークンの管理が伴う
- データの取得・作成・更新・削除の操作がある
- 複数のクライアント(Claude、GPT、Gemini等)から統一的にアクセスしたい
Agent Skillsで解決すべきケース
- 同じ指示を3回以上繰り返し入力している
- 業務手順・ルール・フォーマットを標準化したい
- チーム全体で品質を均一化したい
- テンプレートやチェックリストに基づく定型業務がある
組み合わせが必要なケース
- 外部データを取得し、特定のフォーマットで加工・出力する
- 複数のツールを横断するワークフローがある
- 承認フローや例外処理の条件分岐が必要
MCPサーバーにもツール使用のヒントや一般的なタスクのプロンプトを含められますが、これは「サーバーとツールの正しい使い方」に限定すべきです。「特定の業務プロセスやマルチサーバーワークフローでの使い方」はSkillの守備範囲です。MCPが「JSONで返せ」と言い、Skillが「Markdownテーブルでフォーマットせよ」と矛盾する状況は避けてください。
実装規模とコスト感
homulaの実績に基づく参考値として、MCPサーバーの構築・接続設計は1〜3週間(MCP活用支援で対応)、Agent Skills準拠のスキルパック作成は3〜5日のブートキャンプで10〜30本のSKILL.mdを構築可能です。処理時間93%削減、トークン消費90%削減といった改善事例も報告されています。
よくある質問
Agent SkillsはMCPを置き換えるものですか?
いいえ。Agent Skillsは「知識」、MCPは「接続」という異なるレイヤーの問題を解決します。両者は競合ではなく補完関係にあり、組み合わせることで最も効果的なAIエージェントアーキテクチャが実現します。
Agent Skillsはどのプラットフォームで使えますか?
2026年2月時点で、Claude(API・Claude.ai・Claude Code)、Cursor、GitHub Copilot、VS Code、OpenAI Codex、Amp、Goose、OpenCodeなど20以上のプラットフォームが対応しています。Microsoftは131のAzure SDK向けSkillを公開しており、エコシステムは急速に拡大中です。
既存のMCP実装にAgent Skillsを追加するにはどうすればよいですか?
既存のMCP接続はそのまま維持し、Agent Skillsを「上のレイヤー」として追加します。SKILL.md内でMCPツールをサーバー名:ツール名形式で参照すれば、MCPの接続能力とSkillsの業務知識を組み合わせて活用できます。
まとめ — 接続と知識の適切な分離がエンタープライズAIの成熟度を決める
MCPとAgent Skills — この2つのオープンプロトコルは、AIエージェントが「できるだけ」の状態から「正しくできる」状態へ進化するために不可欠な基盤です。接続(配線)と知識(知恵)を適切に分離し、それぞれに最適な標準を適用することが、スケーラブルで保守性の高いエンタープライズAIアーキテクチャの鍵となります。
homulaは、MCPとAgent Skillsの両方を熟知したコンポーザブルAIアーキテクトとして、要件に応じた最適な組み合わせを設計します。まずは3〜5日のブートキャンプで、御社の業務にMCPとAgent Skillsがどう適用できるかを具体的に検証してみませんか。
MCPとAgent Skillsを組み合わせたAIエージェント設計にご関心のある方は、MCP活用支援、Agent Skills開発支援の詳細をご覧いただくか、無料相談よりお問い合わせください。
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