「Claudeに何度も同じ説明をしている」— それはSkill化のサインです
homulaは、エンタープライズ企業向けにAIエージェントの戦略策定・PoC・実装・運用・内製化までを一気通貫で支援するAIインテグレーターです。
AIエージェントの導入が進む企業で、繰り返し聞こえてくる声があります。「毎週の営業レポート、Claudeに毎回フォーマットを説明するのが面倒になってきた」「経費精算の承認ルール、部署ごとに微妙に違うのに、誰がどう教えたかで出力がバラバラ」。
この「AIへの繰り返し説明」は、業務知識がいまだ個人の頭の中にとどまっていることを示すシグナルです。Agent Skillsは、こうした組織の暗黙知をSKILL.mdファイルとしてパッケージングし、AIエージェントが必要な時に必要な分だけ読み込む仕組みを提供します。2026年2月時点で20以上のAIツール(Claude、Cursor、VS Code、OpenAI Codex等)がこの標準を採用しており、一度作成したSkillを複数プラットフォームで再利用できるポータビリティが大きな強みです。
本記事では、homulaのFDE(Forward Deployed Engineer)が実際のエンタープライズ案件で実践している「業務ナレッジ → SKILL.md変換」の5ステップを公開します。
図1: 業務ナレッジからSKILL.mdへの変換プロセス。Step 5の後はStep 4に戻り、評価→改善を繰り返す。
Skill化すべき業務知識を見極める — 4つの判断基準
すべての業務知識をSkill化する必要はありません。組織内に散在するナレッジの中から、SKILL.mdへの変換効果が高いものを選別する判断基準が重要です。
| 判断基準 | 説明 | Skill化の候補例 |
|---|---|---|
| 繰り返し性 | Claudeに何度も同じ説明をしている | レポートフォーマット、コーディング規約、定型メール文面 |
| クロスプロジェクト性 | 複数のプロジェクトや部門で共通に使う知識 | データウェアハウスのクエリパターン、社内用語辞書 |
| 安定性 | 頻繁には変わらない手順やルール | ブランドガイドライン、コミットメッセージ規約、承認フロー |
| マルチユーザー性 | 技術・非技術問わず複数人が恩恵を受ける | 社内ドキュメントテンプレート、経費精算ルール |
4つのうち2つ以上に該当する業務知識は、SKILL.md化の優先候補です。逆に、頻繁に変わるルールや特定の1人しか使わない手順は、Skillよりもプロンプトテンプレートや個人メモとして管理する方が適切な場合があります。
最も簡単なスタート地点: 「Claudeに何度も同じ説明をしている」と感じたタスクを1つ選ぶこと。その説明内容がそのままSKILL.mdの骨格になります。
SKILL.md変換の5ステップ
Step 1: 業務フローの棚卸し — SMEインタビューで「見えない手順」を引き出す
業務をSkill化する第一歩は、Subject Matter Expert(SME: 業務の熟練者)へのインタビューです。ポイントは、SME自身が「当たり前すぎて意識していない手順」を引き出すことにあります。
homulaのFDEが実践するインタビュー手法は以下の構造に従います。
Phase A: タスクの全体像を把握する(15分)
「この業務の目的は何ですか?」「最終的なアウトプットはどのような形式ですか?」「誰がこのアウトプットを使いますか?」。まずゴールと成果物を明確にします。
Phase B: 手順を時系列で追う(30分)
「直近でこの業務をやった時のことを思い出してください。最初に何をしましたか?」。過去の具体的なエピソードに基づいて聞くことで、マニュアル化されていない暗黙のステップが浮かび上がります。例えば「テストアカウントは除外する」「金額が10万円を超えたら部長承認が必要」といったルールは、ドキュメントに書かれていないことが多いものです。
Phase C: 例外と判断基準を探る(15分)
「うまくいかなかった時はどんなケースでしたか?」「判断に迷う場面はどこですか?」。例外パターンと判断の境界線は、SKILL.mdの承認境界設計に直結します。
homulaのAIエージェント・ブートキャンプでは、Day 2にSMEインタビューを5-10名に対して実施し、Day 3にはSKILL.mdドラフトの作成まで進めます。5日間で業務棚卸しからプロトタイプ構築、ROI試算まで完結する短期集中プログラムです。
Step 2: 暗黙知の言語化 — Claudeとの共同開発パターン
インタビューで収集した情報を構造化する段階では、Claude自身を「共同開発者」として活用する手法が効果的です。Anthropicが推奨する2インスタンスパターンを応用します。
Claude A(設計者役): ドメイン知識を対話的に受け取り、SKILL.mdの構造を提案する。
Claude B(テスター役): 完成したSkillを使って実際のタスクを実行し、品質を検証する。
Claude Aに対しては、以下のように対話を始めます。
当社の経費精算プロセスをSkill化したい。業務の手順とルールを伝えるので、
SKILL.mdの構造に整理してほしい。
Claude Aは「主要なデータソースは何ですか?」「承認が必要な条件はありますか?」「出力フォーマットの指定はありますか?」といった質問を投げかけてきます。このプロセスの最大の価値は、SME自身が「当たり前」と思っている知識がClaudeの質問によって引き出され、明文化される点にあります。
ここで重要な原則があります。SKILL.mdに書くべきは「Claudeが知り得ない組織固有の知識」だけです。Claudeが既に知っているプログラミング文法やSQL構文を書き連ねる必要はありません。テーブル名、カラム構造、ビジネス用語の定義、社内固有のフィルタ条件——こうした情報こそがSkillの価値の源泉です。
Step 3: SKILL.md構造化 — フロントマターから承認境界まで
収集・言語化した業務知識を、Agent Skills仕様に準拠した構造に落とし込みます。
図2: SKILL.mdの4層構造。段階的開示により、必要なレイヤーだけがコンテキストに読み込まれる。
フロントマターの要点
nameフィールドは小文字英数字とハイフンのみ(64文字以内)。descriptionフィールドは三人称で「何をするか」と「いつ使うか」の両方を含めます。Claudeは100以上のSkillの中からdescriptionだけを頼りに適切なSkillを選択するため、このフィールドの品質がSkillの利用頻度と精度を直接左右します。
本文の記述パターン
業務プロセスのSkillでは、4つの記述パターンを組み合わせるのが一般的です。
| パターン | 用途 | 経費精算Skillでの使い方 |
|---|---|---|
| テンプレート型 | フォーマット固定の出力 | レポートの出力形式を厳密に定義 |
| ガイドライン型 | 判断を伴うタスク | データ分析方針の柔軟な指示 |
| Examples型 | スタイル統一 | 成功パターンの入出力ペアを提示 |
| Decision Tree型 | 条件分岐ワークフロー | 金額閾値に応じた承認フロー分岐 |
SKILL.mdの行数は500行以下に抑えるのが推奨です。詳細なテーブルスキーマやテンプレートはreferences/ディレクトリに分割し、SKILL.md本体はナビゲーション役に徹します。
Step 4: 評価駆動開発 — 3シナリオ最低テスト
Anthropicが推奨する**評価駆動開発(Evaluation-Driven Development)**は、「まず評価シナリオを作り、そこから逆算してSkillを改善する」アプローチです。
テスト設計の基本構造:
| ケース | 目的 | 例(経費精算Skill) |
|---|---|---|
| 正常系 | Skillが起動して正しく処理すべきケース | 「今月の経費を部門別に集計して」 |
| 非対象 | Skillが起動すべきでないケース | 「経費精算の一般的なルールを教えて」 |
| 境界 | 承認境界のテスト | 「99,999円の交通費を精算して」vs「100,001円の交通費を精算して」 |
まずSkillなしの状態でClaudeに同じタスクを実行させ、ベースラインを記録します。次にSkillを適用して結果を比較し、改善が確認できるまで「評価 → 修正 → 再評価」を繰り返します。
よくある失敗: 「書いたから使おう」で品質未検証のままSkillを組織に配布すること。descriptionの誤トリガーや手順の不足に気づかないまま、全社的に不正確な出力が生成されるリスクがあります。最低3シナリオのテストは必須です。
Step 5: 組織配布とバージョン管理
完成したSKILL.mdを組織全体に展開する段階では、ソフトウェア開発と同様のガバナンスが求められます。
Git管理を基本とする: SKILL.mdをGitリポジトリで管理し、変更はPull Requestでレビューを必須化します。「誰が」「いつ」「何を変更したか」が追跡可能な状態を保つことが、エンタープライズ運用の前提です。
ロールベースの配布: 営業チーム向け(CRM操作、パイプラインレポート)、エンジニア向け(コードレビュー、デプロイワークフロー)、財務向け(レポート生成、監査準備)のように、各ロールに関連するSkillだけをバンドルして配布します。APIでは1リクエストあたり最大8つのSkillsを指定できるため、ロール別に必要なSkillを絞り込む設計が重要です。
バージョニング: metadataフィールドにバージョンを記録し、破壊的変更がある場合は評価シナリオの再実行を必須とします。
実例: 経費精算スキルパックのSKILL.md
理論だけでは伝わりにくいため、homulaのFDEが実際のエンタープライズ案件で作成したスキルパックの構造を示します。
ディレクトリ構造:
expense-report-processing/
├── SKILL.md # メタデータ + 手順 + 承認境界
├── references/
│ ├── report-template.md # 社内レポートフォーマット定義
│ ├── department-codes.md # 部門コード一覧
│ └── approval-thresholds.md # 承認閾値の詳細ルール
└── scripts/
└── validate-amounts.py # 金額バリデーションスクリプト
SKILL.md の内容:
---
name: expense-report-processing
description: >
月末経費精算データの集計、部門別レポート生成、承認フロー起動を行う。
経費精算、月次レポート、部門別集計、交通費精算に関するタスクで使用する。
license: Proprietary
metadata:
author: homula
version: "1.2.0"
industry: finance
---
# 経費精算処理スキル
## いつ使うか
ユーザーが以下に言及したとき:
- 経費精算、月次レポート、部門別集計
- ERP/会計システムからのデータ抽出が必要なとき
- 交通費・接待費・備品購入の精算処理
## 手順
1. ERPから当月の経費データを取得(MCP: erp-connector:get_expenses)
2. 部門コードで集計・分類(references/department-codes.md 参照)
3. テストデータを除外: is_test = true のレコードを必ず除外
4. 社内フォーマットに従いレポートを生成(references/report-template.md 参照)
5. 承認境界チェック(下記 ## 承認境界 セクション参照)
6. Google Driveに保存(MCP: gdrive:upload_file)
7. 部門長にSlack通知(MCP: slack:send_message)
## 承認境界
| 金額範囲 | 操作 | 承認要否 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 自動処理・レポート生成 | 自律実行可 |
| 10万円以上50万円未満 | レポート生成後、部門長承認WFを起動 | 承認必須 |
| 50万円以上 | レポート生成後、経理部長+CFO承認WFを起動 | 承認必須 |
| 経費データの削除・修正 | — | 禁止(人間が手動で実施) |
## Tool Use Examples
**Example 1: 通常の月次集計**
ユーザー: 「営業部の今月の経費をまとめて」
→ erp-connector:get_expenses で営業部データ取得
→ テストデータ除外
→ references/report-template.md に従いレポート生成
→ 全件10万円未満のため自律処理
→ Google Driveに保存、Slack通知
**Example 2: 高額経費を含むケース**
ユーザー: 「開発部の経費精算をお願い。先月の展示会出展費も含めて」
→ erp-connector:get_expenses で開発部データ取得
→ 展示会出展費 120万円を検出
→ レポート生成後、承認WFを起動(部門長+CFO承認)
→ 承認完了まで処理を一時停止
## 注意事項
- 10万円以上の経費は必ず承認WFを経由すること
- レポートフォーマットは references/ を参照
- 部門コードが不明な場合はユーザーに確認を求める
このSKILL.mdは約80行で構成されており、500行の推奨上限を大幅に下回っています。詳細なテーブルスキーマやレポートテンプレートはreferences/に分離し、Claudeが経費精算タスクを実行する時だけオンデマンドで読み込む設計です。
承認境界の設計パターン — エンタープライズ統制の核心
承認境界(Approval Boundaries)は、AIエージェントに「どこまで自律的に行動してよいか」を定義する、エンタープライズ運用の核心です。homulaでは3段階の設計パターンを標準としています。
| 段階 | 定義 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| 自律実行 | AIが独立して完了してよい操作 | リスクが低く、やり直しが効く操作に限定 |
| 承認必須 | AIがドラフトを作成し、人間が承認する | 金額閾値、外部送信、データ変更を含む操作 |
| 禁止 | AIが一切実行してはならない操作 | データ削除、権限変更、契約締結 |
承認境界の設計は、Step 1のSMEインタビューで収集した「判断に迷う場面」の情報が直接活きる部分です。業務のリスク特性に応じて閾値を設定し、評価駆動開発(Step 4)で境界ケースのテストを重点的に行います。
homulaのAgens Controlは、WAF/DLP/5年監査ログ/RBACを備えたエンタープライズ統制基盤として、SKILL.mdに定義された承認境界をシステムレベルで強制します。SKILL.md上のルールが「お願い」ではなく「制御」として機能する点が、個人利用とエンタープライズ運用の決定的な違いです。
homulaブートキャンプでの実践 — 5日間で業務棚卸しからSKILL.mdまで
AIエージェント・ブートキャンプは、業務棚卸し・プロトタイプ構築・ROI試算を3-5日で完結させる短期集中プログラムです。本記事で解説した5ステップを凝縮したプログラム構成は以下の通りです。
| Day | テーマ | 成果物 |
|---|---|---|
| Day 1 | Opportunity Gap定量化 | AI成熟度アセスメント、機会損失の概算 |
| Day 2 | 業務棚卸し+SMEインタビュー | MCP接続候補リスト、業務フロー定義書 |
| Day 3 | SKILL.md構造化+承認境界設計 | SKILL.mdドラフト(1-3業務分)、承認マトリクス案 |
| Day 4 | プロトタイプ構築+評価テスト | 動作するMVP、評価シナリオ結果 |
| Day 5 | ROI試算+ロードマップ提示 | 定量効果算出、Phase 2以降の見積もり |
ブートキャンプで作成したSKILL.mdドラフトは、Phase 2(Build: 300-800万円 / 2-4ヶ月)で本番品質に仕上げます。homulaのFDEが業務ルールのヒアリングからMCPサーバー接続設計、承認フロー定義、ナレッジ整備までを実施し、成果物はそのままAgens上にデプロイ可能なAgent Skills準拠のスキルパックとして納品されます。
避けるべきアンチパターン
最後に、エンタープライズでのSKILL.md変換において頻出する失敗パターンを整理します。
全部入りSkill: 1つのSkillにあらゆる業務を詰め込む。descriptionが曖昧になり誤トリガーが増加します。業務ドメインごとにSkillを分割してください。
情報の二重管理: SKILL.mdとreferences/の両方に同じ情報を記載する。更新時に矛盾が発生します。SKILL.mdはナビゲーション役に徹し、詳細は参照ファイルに集約するのが原則です。
評価なしデプロイ: 「書いたから使おう」で品質未検証のまま組織に配布する。最低3シナリオ(正常系・非対象・境界)のテストは必須です。
暗黙の依存: パッケージや外部ツールの存在を仮定する。特にAPI環境ではネットワークアクセスが制限されており、依存関係は常に明示的に記述します。
まとめ: 組織の暗黙知を再利用可能な資産に変える
業務ナレッジのSKILL.md化は、個人の暗黙知を組織の再利用可能な資産に変換するプロセスです。本記事で解説した5ステップ——業務棚卸し、暗黙知の言語化、SKILL.md構造化、評価駆動開発、組織配布——を通じて、「AIへの繰り返し説明」から「一度作れば誰でも同じ品質で使えるスキルパック」への転換が実現します。
Agent Skillsはオープン標準として20以上のプラットフォームに採用されており、一度作成したSkillは特定ベンダーに依存しません。homulaは、ベンダーニュートラルな立場からAgent Skills準拠のスキルパック開発・エンタープライズ配布・ガバナンス設計までを一気通貫で支援しています。
Agent Skillsの基本概念から組織運用までを体系的に学びたい方は、Claude Agent Skills 完全入門ガイド(全5回)をご覧ください。
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「組織の暗黙知をSkill化したいが、どこから始めればよいかわからない」 — homulaのブートキャンプは、5日間で業務棚卸しからSKILL.mdドラフト作成、ROI試算まで完結します。